IVRは、血管造影、超音波検査、CTなどの画像ガイド下に、体内にカテーテルや針を入れて治療する放射線診断を応用した治療です。外科的切除に比べて低侵襲で、外科的アプローチが困難な症例で有効な場合もあり、近年、急速に発展している分野です。腫瘍や血管病変など、全身の幅広い疾患が対象となりますが、特に、外傷や出産による活動性出血には、救命のための迅速な止血が可能であり非常に有効です。
その他の例として、腫瘍生検、各種ドレナージ、経皮的椎体形成術、肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術、消化管出血、喀血に対する動脈塞栓術、腫瘍摘出前の出血予防目的の塞栓術、血管奇形の硬化療法などを施行しています。
様々な診療科の疾患を治療対象とするため、良い治療を行うためにはカンファレンスなどを通じて、各科の医師と良好なコミュニケーションをとって、協力し合うことが重要です。
当院は、高度救命救急センターを有し、長野県の3次救急の最後の砦となっています。ドクターヘリなどで、山岳地帯を含めた長野県中から、多数の救急患者が搬送されています。産科施設としても、ハイリスク出産や他院で対処できない産科出血などの患者も随時来院しています。このような救命のために止血が必要な患者様に対して、緊急IVRにて即時対応しています(年間約50件)。
また、繰り返す喀血に対する気管支動脈塞栓術も行っています。対象患者様は長野県各地から来院しており、呼吸器内科や呼吸器外科と連携して集学的治療にあたっています。
当院放射線科には、10名の日本IVR学会認定のIVR専門医が在籍しています。緊急時でも必ずIVR専門医を含めた3名以上の放射線科医が常時治療ができる体制を整えています。
形成外科と連携して、血管奇形(動静脈奇形、静脈奇形、リンパ管奇形)に対する塞栓・硬化療法も行っています。血管奇形は、病変の局在、血行動態が様々であり、症例ごとに最適な治療方法が異なります。まずは、超音波検査、CT、 MRI、血管造影などで、入念に病変の評価を行った上で、形成外科を含めた各科医師、患者様と相談の上、外科的切除またはIVR、あるいは両方の併用など、最適な治療方針を決定し治療しています。外科的切除とIVRの併用はハイブリット手術室という、外科的切除とIVRの両方の治療が施行可能な治療室で行っています。
悪性腫瘍に対するIVRとして、頭頚部癌に対する選択的動注化学療法や肝細胞癌に対する肝動脈化学塞栓療法、動注リザーバー留置などを行なっています。これらの手技では、腫瘍の近くまでカテーテルを進めて、高濃度の抗癌剤や塞栓物質を注入することによって、腫瘍に対しては静注に比べてより高い治療効果を得られる一方、全身への副作用は低減させることができます。
肝動脈化学塞栓術
非血管性病変に対するIVRとして、経皮的生検、ドレナージ、椎体形成術などを行なっています。これらいずれも超音波装置(US)やCTを使用した画像ガイド下に細い針を用いて手技を行っています。針の穿刺経路にあるリスク臓器(血管、神経、実質臓器)を把握しながら、ピンポイントに体内の標的病変に針を進めることにより、安全確実に標的病変に到達することができます。病変まで針を進めたら、組織の検体を採取したり(生検)、膿を吸引しチューブを留置したり(ドレナージ)、セメントを注入したりします(椎体形成術)。
経皮的生検は、悪性腫瘍の組織学的診断および治療方針決定に大きな役割を果たします。局所麻酔のみで組織が採取でき、低侵襲に診断できる点がメリットです。白血病などの血液疾患や悪性リンパ腫などで血液が固まりにくくなっている(血液凝固障害)をもつ患者様に対しては,経頸静脈的肝生検を施行しています。
ドレナージは、抗生剤が効きにくい膿瘍に対して有効な治療となります。早期治療や早期退院が可能となります。
椎体形成術は、脊椎の圧迫骨折により不安定になった椎体(偽関節)をセメント固定することによって、痛みを和らげ、生活の質を改善することが可能です。骨折の原因となる骨粗鬆症のほか,腫瘍も対象となります。
血管病変、その他血管系IVR:すべての手技を実施
動脈塞栓術、非血管IVR:ほとんどすべての手技を実施
※赤文字は当科で手技施行
※日本IVR学会 手技別病院検索 関東
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